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富山地方裁判所 平成10年(行ウ)4号 判決

原告

佐伯巖俊(X1)

若林和二(X2)

高畠康吉(X3)

右三名訴訟代理人弁護士

青島明生

被告

(富山県知事) 中沖豊

松井紀夫

江本定雄

右三名訴訟代理人弁護士

島崎良夫

事実及び理由

第三 当裁判所の判断

一  争点1(本件訴えの住民訴訟としての適法性)について

1  地方自治法二四二条二項本文は、普通地方公共団体の執行機関、職員の財務会計上の行為は、たとえそれが違法、不当なものであったとしても、いつまでも監査請求ないし住民訴訟の対象となり得るとしておくことは法的安定性を損ない、好ましくないとして、監査請求の期間を当該行為のあった日又は終わった日から一年と定めている。

しかしながら、当該行為が普通地方公共団体の住民に隠れて秘密裡になされ、右の一年を経過してから初めて明らかになった場合等にも右の趣旨を貫くことは相当ではないことから、同項ただし書は、正当な理由があるときは、当該行為があった日又は終わった日から一年を経過した後であっても、普通地方公共団体の住民は監査請求をすることができると定めている。

そして、右のように当該行為が秘密裡になされた場合、同項ただし書にいう正当な理由の有無は、特段の事情のない限り、普通地方公共団体の住民が相当な注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為を知ることができたか否か、また、当該行為を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたか否かによって判断すべきものと解するのが相当である。

2  前記第二、二、2及び4のとおり、本件支出がなされたのは平成六年七月四日から平成七年五月一六日までの間であり、原告らが本件監査請求を行ったのは平成一〇年二月六日であるから、本件監査請求は本件支出から二年八か月ないし三年七か月余り経過してなされたことが明らかである。

そうすると、本件監査請求が適法であるか否かは、本件支出が富山県の住民に隠れて秘密裡になされたか否か、本件監査請求が平成一〇年二月六日に至ってなされたことについて正当な理由があるか否かによることになる。

3(一)  当初開示文書及び追加開示文書の記載内容は次のとおりである。

(1) 当初開示文書は、本件支出についての支出負担行為決議書及び本件支出の一部についての支出更正伺であり、その記載内容はおおむね次のとおりである(〔証拠略〕)。

件名欄には、「来客接待用」、「土地改良事業に関する関係団体との事前協議後の懇談会経費として」、「林務関係懇談会経費」などとの記載がある。

支出科目の節・細節欄には、いずれも「諸費」との記載がある。

支出目的欄には、「土地改良事業に係る現地視察並びに事務打合せ後の懇談経費」、「土地改良事業に関する関係団体との事前協議後の懇談経費」、「土地改良事業に係る事務打合せ会議後の懇談経費」、「広域農道整備に係る関係団体等事務打合せ会議後の懇談経費」、「新規採択要望地区現地視察後の懇談経費」、「農村整備事業に係る事務打合せ後の懇談経費」、「新規事業採択地現地調査における懇談経費」、「治山事業に係る事務打合せ後の懇談経費」、「林道事業計画打合せに係る懇談経費」、「ため池等整備事業に係る事務打合せ後の懇談経費」、「公害防除特別対策事業に係る事務打合せ後の懇談経費」、「7年度保安林事業推進にかかる打合せ後の懇談経費」、「新規地区現地調査後の懇談経費」、「繰越地区現地調査ヒヤリング後の懇談経費」、「自然公園等整備事業推進にかかる打合せ後の懇談経費」、「農地防災事業推進にかかる打合せ会議後の懇談経費」などとの記載がある。

件名欄及び支出目的欄の記載の一部は、「・・・現地調査後の・・・との懇談経費」、「・・・職員来所に伴う懇談経費」、「・・・現地調査にかかる懇談経費」、「林務関係・・・懇談会経費」、「広域農道・・・関係者との懇談経費」、「平成7年度・・・事業計画事務打合せに係る懇談経費」、「・・・現地調査後の懇談経費」、「・・・によるかんがい事業現地視察後の懇談経費」、「・・・会議後の懇談経費」、「水環境整備事業・・・現地視察後の懇談経費」となっていて、一部が見えないようにしてコピーされている(「・・・」の部分が見えないようにしてコピーされた部分である。)。

また、支出目的欄には懇談会に参加した者の所属及び人数も記載されているが、農地林務事務所の職員等の富山県の職員の所属及び人数並びに懇談の相手方の人数は記載されているが、懇談の相手方の所属は見えないようにしてコピーされている。

支出額の内訳欄にはいずれも、料理、ビール、酒等に支出された旨の記載がある。

また、債権者の債主コード、氏名及び住所等は見えないようにしてコピーされている。

(2) 追加開示文書は、当初開示文書と同一の文書であるが、当初開示文書とは次の部分が異なっている(〔証拠略〕)。

当初開示文書においてその一部が見えないようにしてコピーされていた件名欄及び支出目的欄の記載の一部は、「優良工事表彰にかかる現地調査後の選定委員との懇談経費」、「埼玉県中川水系農業水利事務所職員来所に伴う懇談経費」、「新潟県相川林業事務所職員来所に件う懇談経費」、「災害査定にかかる現地調査後の査定官との懇談経費」、「災害査定現地調査にかかる懇談経費」、「林務関係課長会議における懇談会経費」、「広域農道用地買収調印に係る関係者との懇談経費」、「平成7年度公社造林事業計画事務打合せに係る懇談経費」、「本省整備課職員現地調査後の懇談経費」、「北陸農政局によるかんがい事業現地視察後の懇談経費」、「管内土地改良区局長・市町担当課長会議後の懇談経費」、「水環境整備事業本省・局現地視察後の懇談経費」、「森林保全巡視員会議後の懇談経費」となっておりその全部が見えるようになっている。

また、当初開示文書において見えないようにしてコピーされていた支出目的欄の懇談の相手方の所属の記載は、「北陸農政局」、「関係市町(黒部市外3町)、東部土地改良協議会」、「関係土地改良区、管内市町」、「土改連」、「関係市町、促進協議会」、「関係市(魚津市・滑川市)、関係土地改良区」、「北陸農政局、建設省黒部工事事務所、黒部川沿岸農業水利事業所、管内市町」、「委員」、「中川事務所」、「相川事務所」、「北陸財務局、北陸農政局」、「林政課長、治山課長、自然保護課長、事務所各課長(富山・高岡・砺波(2)・有峰・魚津)」、「県森連、森林公社、新川森林組合、管内林務担当課長」、「地元区長等」、「魚津市、滑川市、黒部市、宇奈月町、入善町、朝日町」、「管内市町村」、「北陸農政局、管内市町村、東部土地改良協議会」、「森林公社、新川森林組合、管内市町村」、「本省」、「黒部市地区役員(牧野地区ほか)、石田土地改良区」、「東部林業協会、新川森林組合、管内市町」、「農政局」、「朝日町、宇奈月町、魚津市、営林署」、「土地改良区、市町」、「黒部市、宇奈月町、十二貫野用水土改」、「本省」、「巡視員、市町]、「黒部市、田籾地区代表」となっており、その全部が見えるようになっている。

さらに、債権者の債主コード、氏名及び住所等の一部が見えるようになっている。

(二)  右(一)、(1)に認定した事実によると、原告らは、当初開示文書からは、本件支出がいずれも、<1>食糧費として支出されていること、<2>現地視察、事務打合せ、事前協議、会議等の後に行われた懇談会の経費ないし来客来所に伴う懇談会の経費であること、<3>飲酒を含む飲食であることを知ることができたものと認められる。

さらに、前記第二、二、3、(四)のとおり、原告らは、原告佐伯が、原告ら訴訟代理人と共に、当初開示の後、農地林務事務所を訪れ、当初開示文書についての疑問点を指摘するとともに、懇談の内容等について尋ねたところ、記録した書類がないので答えられないと言われ、本件支出の目的、効果等について説明を求めたが、明確な回答を得ることができなかったことから、<4>懇談の内容、目的、効果等が不明であることを知ることができたものと認められる。

以上からすると、原告らは、当初開示の後、原告佐伯が農地林務事務所を訪れた時点において、懇談の相手方、懇談のなされた場所を知ることはできなかったものの、右<1>から<4>までの事項により、原告らが主張する、本件支出が食糧費の支出目的、必要最小限性に反してなされたという、本件支出が違法、不当なことを知ることができたものと認められる。

そうすると、原告らは、右時点で、相当な注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為を知ることができた状態にあったということができる。

そして、本件監査請求は右時点から約一年二か月経過してなされているのであるから、原告らが当該行為を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたということができないことは明らかである。

(三)  この点について、被告らは、本件支出はすべて、予算に基づき、正規の手続に従って行われており、秘密裡になされた場合に該当しないことは明らかであるから、本件訴えは、正当な理由の有無について判断するまでもなく 不適法であると主張する。

しかしながら、被告らが主張するように、本件支出がすべて、予算に基づき、正規の手続に従って行われたとしても、原告らが、富山県の公職に就いているなど、富山県の予算の執行状況について一般の住民に先んじてその内容を知りうる立場にあるなどの特段の事情のない限り、本件支出の存在を、支出がなされた後、直ちに知ることができないのは明らかであり、かつ、本件においては、原告らが富山県の公職に就いているなど富山県の予算の執行状況について一般の住民に先んじてその内容を知りうる立場にあったなどの特段の事情は認められない。また、当該行為とは違法、不当な財務会計行為であり、財務会計行為の存在自体を知っただけでその具体的内容等を知らなければ、それが違法、不当であるか否かについて判断することはできないと解されるところ、本件においては、原告らがその主張する、本件支出の違法、不当なことを知ったのは、前記(二)で判示のとおり、当初開示の後、原告佐伯が農地林務事務所を訪れた時点であると認められる。

したがって、被告らの右主張は採用することができない。

(四)  また、原告らは、追加開示の時点で初めて本件支出の違法、不当なことを知ることができたのであり、かつ、原告らが監査請求を行うためには、追加開示文書の分析、監査請求や住民訴訟の見通し等の住民訴訟の提起に関わる様々な要素についての検討が必要であり、これらのためには最低三か月の期間が必要であった旨主張する。

しかしながら、原告らが本件支出の違法、不当なことを知ることができたのは、当初開示の後、原告佐伯が農地林務事務所を訪れた時点であることは、前記(二)で判示のとおりである。

(仮に、原告らの右主張のように、原告らが追加開示の時点で初めて本件支出の違法、不当なことを知ることができたものであるとしても、本件監査請求は追加開示の時点から約三か月経過してなされているところ、当初開示の時点から追加開示の時点までに既に約一年が経過しており、当初開示文書についてはこの間に十分に検討することができたと認められること、前記(二)、(2)によると、追加開示文書によって新たに得られた情報はわずかなものであり、かつ、右情報は当初開示文書と追加開示文書とを対照することによって容易に知ることができるものであって、追加開示文書の分析にそれほど時間が必要であったとは認められないこと、監査請求の際の「証する書面」は比較的簡易な文書で足りること、相当な期間は監査請求をするための準備に必要な期間であって、住民訴訟を提起するための準備に必要な期間として認められるものではなく、また、監査請求をした後にも住民訴訟を提起するための準備をすることが可能であると解されることからすると、右の約三か月の期間は相当な期間であるということはできない。)。

よって、原告らの主張は採用することができない。

4  以上からすると、本件監査請求が本件支出から二年八か月ないし三年七か月余り経過してなされたことについて、地方自治法二四二条二項ただし書にいう正当な理由は認められず、本件監査請求は不適法であるというべきである。

二  結論

以上によれば、原告らの本件訴えは監査請求前置の要件を満たしておらず、不適法であるから却下することとする。

(裁判長裁判官 德永幸藏 裁判官 源孝治 村上泰彦)

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